なぜ、政府支出を増やすことが経済成長に繋がるのか〜成田悠輔氏の「情弱ビジネス」発言に反論する【池戸万作】
■計量シミュレーションでも実質国民所得が増える結果に
これまで述べて来た政府支出を増やせばGDPが増えることは、日経NEEDSという計量シミュレーションの結果からも確認できる。
日経NEEDSとは、ノーベル経済学賞の受賞者であるローレンス・クライン教授が開発した予測手法を元に、日本経済新聞社が日本の実体経済のデータに合わせて、改良に改良を重ねてきた四半期ベースのマクロ計量モデルである。その計量分析には「EViews」というソフトウェアを用いて行う。
私も実際にコマンドを入力して試算結果を出したことがあるが、この計量モデルを使用して様々な試算を行ったのが、私も幹事として所属する「日本経済復活の会」で、会長を務める小野盛司氏である。今から十数年ほど前に、私が「日本人の給料を上げるにはどうしたら良いのか?」を考えていた時に出会ったのが、この日本経済復活の会と日経NEEDSの計量シミュレーション結果であった。
さて、この計量シミュレーションモデルを用いて、消費税廃止・年間+20兆円の公共投資・年間1人80万円の現金給付・何もやらない現状維持の4つの試算をして、出力された実質国民所得の推移結果が上記の通りである。
実質国民所得550.9兆円からスタートして、その2年半後には、公共投資+20兆円を行った場合だと608.2兆円と+57.3兆円、消費税廃止だと615.7兆円と+64.8兆円、年間80万円の現金給付だと649.0兆円と+98.1兆円もの実質国民所得が上昇することが確認された。しかも、物価上昇率分を除いた実質値であるから、年間80万円の現金給付の場合だと、100兆円近くも物やサービスを買える量が増えることになる。
ちなみに、消費者物価指数の上昇率も見ていくと、スタートの102.0から、公共投資・現金給付のいずれを行った場合でも103.6と、2年半でわずか1.6ポイントしか上昇しないことも分かった。計量シミュレーション結果においては、私たちが想像しているよりも遥かに物価は上昇しにくい模様である。
以上のように、政府支出(給付金や消費税廃止も含めて)を増やせば、実質国民所得も増えることは計量シミュレーション結果からも確実に言えることである。
最後に、成田悠輔氏は常々日本経済が成長しない理由は「分からない」と答えているが、にも関わらず、番組内では経済は複雑でそんな単純ではなく、唯一の解決策は存在しないと啖呵を切っていた。しかし、原因が「分からない」にも関わらず、「単純なものではない」と断言できる論理と根拠が私には分からなかった。原因が「分からない」のであれば、解決策が単純である可能性も排除してはならないのではないかと私は思う。その点が矛盾しているように感じた。そして、私はこの論稿で示して来た通り、日本が経済成長しない理由は「政府支出を増やさない」(もしくは消費税を減税しない)ことに尽きると、今回の論戦を経て多くの人々にバカにされようが、なおも考えは一切変わらない。この点は経済政策アナリストという職務を賭けても良い。この25年間、日本経済が全く経済成長しなかったにも関わらず、一切の責任を取らなかった経済学者やエコノミストとは異なることを示しておきたい。
また、政府支出を増やさずして経済成長させることは、現実的には不可能に近いことも指摘しておきたい。そして、政府支出を一向に増やさない日本は、このまま大して経済成長することもなく、失われた30年が40年、50年と時を重ねて行くことであろう。十数年の間で2倍、3倍もの経済成長を遂げている世界中の国々からは取り残されて、ゆくゆくはアジアの最貧国まで転落してしまうのである。それが「政府支出を増やせば経済成長する」論者である私からの日本経済への警告でもある。私のことを論理も根拠もない情弱ビジネスだと嘲笑う日本人には、笑えない日本経済の未来が待っているのだ。
文:池戸万作